#report 生活のなかの祈り
わたしが学生だった頃から憧れの存在だったイラストレーター・松尾ミユキさんに初めてお会いしたのは 2012年のmt school in 四国 でのこと。徳島までワークショップをしにきてくださった松尾さんのお腹は大きくなっていて、ベビーカーにはまだ小さなお子様がぐっすり寝ていた。
それから5年経って、名古屋のカレー屋 babooshka さんや埼玉のギャラリー tanabike さんからのご縁をたどりながら、また大好きな松尾ミユキさんを徳島に呼ぶことができた。今度はutanotaneでの展示として。ベビーカーに乗っていた小さな男の子はゴジラ好きな少年になっていて、お腹のなかにいた子はかわいい女の子になっていた。
人懐っこく無邪気な笑顔を振りまくかわいい子たちを温かく見つめる松尾さんと旦那さんの石原真さん。展示設営日のほんのわずかな時間、共に過ごしただけだったけれど、のびのびとしていて穏やかなご家族は一緒にいて心地がよかった。
素敵な家族。
松尾ミユキさんの絵。石原真さんの詩。
お二人が大事にしている日々のひとつひとつを込めた作品たちを観ていると、どうやらお客様にもお二人自身がつくりだす温かさが伝わるようだった。芯に込められたメッセージは一言一言しっかりと強いものなのに、展示が持つ空気感はとても温かくてやさしい。すっと、二人の想いが染み込んでくる。
「日々のことを想いながら、自分の心のなかから出てくるものを描きました。アーミッシュの世界を描いているけれど、わたしたち自身がそういう生活をしているわけじゃなくて、憧れのようなもの。必要最低限で生活できればいいなと思うけれど、本が好きでたくさん買っちゃうし、子どものおもちゃもあるし(笑)」
アーミッシュとは、アメリカのペンシルベニア州やカナダのオンタリオ州で生活する宗教集団。電気や車も使わず、大陸に移民した当時の生活様式を守り自給自足しながら暮らしている人たちのこと。
「”ステラおばさんのクッキー”ありますよね。ステラおばさんってアーミッシュなんです。学生の頃にクッキーを買って、添えてあった紙からアーミッシュっていう人たちのことを初めて知りました。当時は”へえ〜”って感じだったのが、今、家族を持つようになって自分たちの生活を考えたり、今の時代のことを考えたりするようになって、アーミッシュの生き方を想うようになりました」
作品で描かれているのは、アーミッシュの人たちの暮らしや手仕事のほかに、花や実など自然のなかにあるもの、そして道具。
「原始的な、というか。人間がつくりだしたものじゃない、植物の自然なかたちに惹かれます。道具は人間がつくったものだけど、受け継がれるもの、一生使えるものを大事にしていきたいという想いを込めて描きました」
美しいものにこだわろう日常のどんな些細な生活品にもだって美しくなければあなたはそれを愛せない愛せないものと生活するのは苦しい『Beautiful in the life』より抜粋
松尾さんの絵と想いを翻訳するかのように書いた石原さんの詩。
高校生の頃から詩を書いていた石原さん。2年前の展示を機に、詩と再び向き合いはじめたそう。その詩は、わかりやすい言葉で強くやさしく語りかけてくる。
「今回の展示では、絵が先にあって、それに刺激されて出てきた自分のなかにあるものを詩にしました。スリランカで仏教を学んでいたこともあり、宗教の世界や心のなかのもの、ピュアなものに興味があったので、今回の展示では自分の書きたい世界と一致したんだと思う」
神、天使、祈り…二人の作品にはそんなキーワードがたくさん観られるけれど、遠く離れた世界のことを言っているのではなく、それは自分たちの身のまわりにあること。日々の生活のこと、家族のこと、自然の恵みのこと、老いていくこと、食べること、ものを選ぶということ…。
それらを感謝し、大事に想うこと。
ご友人がつくった額、お子様たちのオブジェ。
自分たちの身のまわりにある小さな手仕事とともに、二人の絵と詩がある。
ひとつひとつに二人の想いがある。
それはやさしい音楽を聴いているようだと思った。
展示を観てくださった方の多くが、自分たちの暮らしを想い、友人を思い出し、故郷を思った。そんな「祈り」のような時間を与えてくれた二人の、家族の、展示。