#つくるひと 岩瀬ゆか
2016年3月取材 画家 岩瀬ゆか さんのこと。
2015年、大阪・iTohenにて偶然、岩瀬ゆかさんの個展を拝見しました。
とんとんと、筆をキャンパスに置いていった跡。少ない色。
なのに、それだけで木々を見上げているような気分になりました。
気持ちがいい風景。
いわゆる”風景”ではないかもしれないけれど、
気持ちのいいイメージが広がる風景がそこにありました。
2016年3月、滞在制作をされているという大阪のギャラリースペースへ。
「このスタイルで絵を描きはじめたのは2、3年前からなんです。それまではしっかりと塗りこんだ人物画とかを描いたりしたんですけど」
20年ほど絵を描いてきて、作風は次第に変わっていった。
「線画のイラストレーションを描いていたこともありましたし、しっかり塗り重ねていく描き方がやっぱり好きなんじゃないかと思って、人物などの対象と深く向き合って描いていたこともありました。」
きっかけは、2010年の展示で発表した、神社の参道の森を描いた作品。
「木を描いているときが気持ちいいなって気づいたんです」
その絵の手応えを心残りに感じながら、出産と育児で5年間、作品発表できない時期を迎えた。
「育児をしながらまた描きはじめたんですけど、子どもの世話があって度々途中で絵から離れないといけない。でもあるとき、描きかけだった絵の前に戻ってくると ”あ、もう出来上がってる”って思ったんです」
描きかけだけど、描き足りている。
そう感じたとき、「描きたいところだけ描けばいいんだ」と気づいたそうです。
全部を説明しなくてもいいんだ、と。
描きたいところだけ、好きなところだけ、心動かされたところだけ。
今は子どもが寝ている早朝と深夜に時間をつくって描いている。
週末には朝の6時から8時まで、近くの公園へと出かける。
木々があふれる公園を歩くと、「あ、きれいだな」と思える瞬間に出会える。そうして、木の幹に画板を立てかけ、絵の具を取り出し、ipodのスイッチを入れて準備を整えると、心動かされた風景のその「部分」だけを切り取るようにして描いていく。
「そこを描こうとしているというより、その風景の一部からヒントをもらっているという感じかもしれません。色とか形とか重なり合った様子とか。すうっと吸い込んで、絵のなかに吐き出している感じ。」
アトリエで制作するときはいつも、クラシック音楽を流している。CD一枚分で作品一枚。演奏が終わるまでに仕上げるということを続けていた。そうして、2015年企画した展示期間にライブペイントをしてみようということに。
でも、生まれて初めてのライブペイントには納得がいかなかった。
「緊張感や客席との空気が気になって、何か思っていたような感じにいかなかったんです。わたし自身も、
実は、公園で描きはじめたのはライブペイントの練習のためだという。
「公園で絵を描いていると、人も通るし、何やってんやろって見てくるし、そんなちょっとした”圧”がライブペイントするときに役立つかなって」
岩瀬ゆかさんが企画するライブペイントの目的は、制作の現場を見せること。
普段、CD一枚分で作品一枚を仕上げているように、音楽家が1時間の演奏をするあいだに、岩瀬さんは作品一枚を仕上げていく。
「わたしはいつもどおり音楽を聴きながら制作をするし、音楽家にもわたしの絵に合わせることなく演奏してもらうんです。お互いが淡々と制作の現場を見せるようなライブがしたいんです」
同じ会場にいながらも二人のアーティストは並行し、微かに交わりながら、それぞれの演奏と制作をつづけていく。
初回の”後悔”を機に、2015年から2016年の春までで全7回のライブペイントを企画した。挑戦のような実験のような、演奏と制作の現場だ。
「through 通り過ぎた風景」が岩瀬さんの作品づくりのテーマだという。
日々、わたしたちは多くの物事に触れながら生きているのに、少しの感動や心の震えに十分に耳を傾けることもせず、立ち止まることはなく、その出来事は、風景は、何事もなかったように通り過ぎていく。その瞬間を、岩瀬さんは表現しようとしている。
人や風景が交わるなかで偶然出会う、些細でうつくしい、その瞬間を。
岩瀬ゆか 個展 「Air Touching」at. uta no tane 2016/07/02 – 07/18 開催
岩瀬ゆか × yuri yamada(piano)ライブペイント『演奏と制作』 2016/07/09 開催
大阪在住。2006年より個展(iTohen、月夜と少年 等)を中心に作品を発表。2015年、5年ぶりに個展「nice breeze(at. iTohen)を開催。近年はアトリエでの制作に加え、ワークショップ、ライブペイントを主とした、コミュニケーションを交えた作品づくりに挑戦、活動しています。野外での制作も様々な場で行っています。