#つくるひと 東口和貴子
2016年10月取材 イラストレーター 東口和貴子さんのこと。
uta no taneのオープン当初から取り扱いさせていただいている大阪のちいさな出版社[BOOKLORE(ブックロア)]から新作が届いたのは2016年2月のこと。大阪在住のイラストレーター、東口和貴子さんのイラスト作品集『DONKOH』だった。
BOOKLOREの本たちはいつも文字どおり「手」をかけられていて、折ったり、切ったり、描いたり、縫ったり、挟んだり…一冊一冊自分たちの「手の跡」を残そうという、編集者の温度が感じられる。『DONKOH』もまた、224ページのうち1ページの上部が三角に折られていた。めくると別の絵が現れる。別のページでは、イラストに内容に合わせて端がギザギザに切り取られていた。表紙の帯もめくると…という遊び心の数々が一冊に散りばめられていた。
このイラスト作品集に仕掛けられた遊び心は、東口和貴子さんの作風あってのことでもある。
東口さんは、学生時代に1コマ漫画を意味する「カートゥーン」を学びながら、社会の皮肉や批評を込めた絵画”風刺画”に興味を持つようになった。作品をつくりながらも「作風に迷いながらつくっていた」という東口さんが大学4回生の頃に出会ったのが洋画家・イラストレーターなどで活躍する久里洋二さん(1928年-)の作品だった。
「久里さんの絵に出会って、もっと自由に描いていいんだって思えるようになったんです」
その後の卒展では、今の東口さんの作風にもつながるサイレント4コマの作品を発表。
以来10年以上、東口さんのスタイルは変わらない。ユニークでクスッと笑える1コマ作品や4コマ作品をつくり続けている。
「観てくれる人を楽しませたいって思っています」
大学を卒業後も1年に1回くらいのペースで個展を開催し、定期的に作品づくりを行ってきた。おにぎりやサンドイッチなどの食べ物や、釣りやゴルフなど、日常の中のありふれたモチーフから連想させて「絵でしか表せない」シュールで自由な世界に変身させている。
「なかなかアイデアはパッと浮かばないんです。テーマを決めてそれについてずっと考えてみたり、過去のスケッチブックを見返してヒントを見つけたり…展示前になったらいつもスケッチブックに向かってネタをどうにかひねり出してます(笑)」
イラスト作品集『DONKOH』は、3年間でつくった作品を224ページにわたり収録。「300点を目指したかったけれど」というけれど、200点以上あるだけでもそのひとつひとつの発想に驚かされるし十分な見応えがある。
「在学中に先生から”いっぱい描いたうちのいくつかにおもしろいものがある”と言っていたのがずっと残っているんです。わたしの作品は全部がおもしろいわけじゃないと思うから、数があってこそ楽しんでもらえる。観てくれた人のなかでどれか1個でも2個でもおもしろいと思ってくれる作品があればいいなと思っています」
「おにぎりやケーキを見て、わたしの作品がふと浮かんでしまったり。日常の中で思い出してくれたらラッキーです(笑)」
10年以上同じ作風で描き続けてきた東口さん。環境が変わるごとにアイデアを探す視点も少しずつ変わっていきながら、飽きずに、頑固に、続けてきた。
そしてこれからも。
「まだこんなん描いてんの?アホちゃう(笑)?って言われるくらいまで描き続けていきたい」
東口和貴子
Higashiguchi Wakiko
http://hi-waco.pupu.jp/
1983年大阪生まれ。 2006年京都精華大学 卒業。 2016年「DONKOH」東口和貴子イラスト集 出版