#つくるひと イワサトミキ
2016年4月取材 絵描き イワサトミキさんのこと。
わたしが覚えている一番最初の「イワサトミキ」は、まだuta no taneをはじめて間もない頃(2012年)のこと。徳島県内で個展を開催中だったイワサトさんは愛媛県や関西からやってきた友人たちを自分の車に乗っけてuta no taneまで送り込むと、すぐさま個展会場へと帰って行った。屈託のない笑顔を撒き散らして、ドタバタとあっという間に。確か2往復だったと思う。そんな彼女のまわりではいつも自然と笑顔が広がった。
イワサトミキさんに出会ったことも、作品を知ったことも、彼女が所属していたバンド[tonari session’s](現在は活動休止中)の音楽を知ったことも、たぶんこんなふうにぜんぶがドタバタとやってきたように思う。
笑顔で、ドタバタで、おもしろい人。かわいいイラストを描く人。バンドで鉄琴やコーラスなんかもやっちゃう人。ぜんぶ素敵で魅力的な「イワサトミキ」だ。
「ただただずっとモノをつくることをつづけていきたい」
小さい頃からぼんやりとそのことだけをただただ思い続けてきたイワサトさんは、大学では油絵やデザインを学び、香川県の実家に戻ってからも高松市内で年に1、2回は二人展などで絵の展示を開いていた。”モノをつくる”ことが生業になるようデザイン業界で働くことも考えていたけれど、作品を自分から売り込みにいくこともできずにいたという。
転機は2009年。
香川県三豊市にあるカフェ『レイジーボーン』で開いた展示。
「ここで出会った人たちに与えられた影響は大きい。展示を観に来ていたミヤタケくんに誘われて、翌年tonari session’sのバンドメンバーにアートワーク担当として入ることになったんです。それまでは自分から外に向かって出ていくことはなかったけれど、ここでいろんな人に出会ってから、ライブを観に行ったり人に会いに行ったり、どんどん外へ動いていくようになりました」
作品から人につながり、人からまた人へ。
出会う人が変わって、出会う世界が変わっていった。
(アートワーク担当と言いつつも、鉄琴やトイピアノ、コーラスなんかもやりながら)tonari session’sのアルバムジャケットやフライヤーをつくりはじめて、彼女が描くイラストたちも外へと動きはじめる。
「tonari session’sのフライヤーがあちこちに飛び回ることで自分の絵を観てもらうことができて、イラストの仕事もいただくようになってきました」
「自分を売り込むことが苦手」な彼女自身に代わって、tonari session’sを通して手がけた作品たちが巡り巡って、たくさんの「出会い」を彼女のもとへと持ち帰ってきてくれた。
(uta no taneの初めてのライブはtonari session’sの企画でした。
フライヤーデザイン&イラストはもちろんイワサトミキさん。この日は大雪だったなあ。笑)
(tonari session’sのアルバム)
「仕事で依頼されて描くフライヤーのイラスト作品と、個展で描く作品はやっぱり違う。フライヤーは依頼された事柄をちゃんと伝達できるようにと思って描くけれど、展示では”あれやりたい、これやりたい”っていう自分の内面的な気持ちを出して描いています。その両方をさせてもらえてることで、自分のなかのバランスが取れてるんだろうなっていう気がしています」
彼女は、絵を描くことがとても好きなんだなと思う。ものをつくることも、表現することも。
いろんな依頼を受けながらドタバタといつも忙しくしているけれど、好きだからやめられないんだと思う。
依頼されて描くイラストレーションも、個展での作品も、どちらも「イワサトミキ」全開で、迷ったり悩んだりしながらもしっかり生み出してぶつけてくるものは、どれもパワーがある。そのときそのときの全力の今を見せてくれるから、魅力的なんだと思う。
イワサトさんといえば「猫」のイメージがある。
彼女がつくったLINEスタンプもやっぱり「猫」。
「2011年に『猫っかぶり』っていうタイトルで、人間の二面性や皮肉めいたとこなんかを猫になぞらえた作品を描いたことがあって、その頃から猫の作品も増えていきました。当時の作品には毒っ気があったんです(笑)」
その頃たくさんの(毒っ気のある)猫を描いたけれど、今ではすっかり「毒」の部分が抜け落ちている。それは猫に限らず、描くものすべての向き合い方が変わってきたのだそう。
「もっとシンプルに素直に描いていこうって思ってきたんです。描きたいものを描く。画材にもこだわらないし、使ってみたいもので描く。もっと自由に描いていきたいなって」
独特の線のタッチで力強く描かれた彼女の文字やイラストレーションは、一目みて彼女のものだとわかる。自由奔放にドタバタと走りまわる彼女のキャラクターが表れたかのように、全力疾走していきそうな線。
一方で、個展でみせる彼女の絵は静かに語りかけてくる。力強さがあって、のびやかで、深く深く吸い込まれていきそうな世界を描く。でも、かっこつけたりせず、たまにちょっとおどけてみせたりしながら。
どちらも彼女らしい。
ぜんぶ素敵で魅力的な「イワサトミキ」だ。
(2016年8月に開催したアートブック「she see sea.」の原画展より)
(手前の船はオブジェ作品「カワラの船」。ご実家は瓦屋さん。)